〈棄想天蓋〉:文芸とポップカルチャーを中心に

トマトです。学位は品種(文学)です。無名でも有名でもないちょうどよい塩梅の文芸作品をとりあげて雑感を綴ることが多いです。レコードが好きです。

アブノーマルな、余りにアブノーマルな:A・チュツオーラ『薬草まじない』(1981)

九月に文庫化された、エイモス・チュツオーラの『薬草まじない』を読みました。

岩波文庫では『やし酒飲み』につづき二冊目、ちくま文庫の『ブッシュ・オブ・ゴースツ』を含めると三冊目の文庫化です。わたしはチュツオーラをそれほど読んでおらず、文庫二冊とトレヴィルから出ていた二冊と合わせてこれが五冊目でした。

ことし読んだ本のなかで、いちばんおもしろかったかもしれません。

 

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六号雑感

眠るのが朝になったときに聴きたくなる曲です。

このMVも何度でもリピートしたくなるけれど、やっぱりそもそもの曲自体が素晴らしい。

 

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イスラエル出身の Oren Lavie はアルバムを一枚しか出しておらず、それもどうやら廃盤となっているようです。The Opposite Side Of The Sea という2007年の作品です。

わたしは数年前にレコード屋さんでプロモーション盤を千円弱で買うことができ、爾来ずっと愛聴しています。自室にあるいちばん最近のCDかもしれません。

 

兎にも角にも、尋常じゃなくかっこよい歌手です。

 

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理外の理、マジックリアリズムのような:『今昔物語集』

ラテンアメリカ文学が好きなので月に一冊くらいはそうした本を読みます。

新しい本にも手を伸ばしますが、コルタサルなどをぱらぱらと再読することが多いです。

 

世にラテンアメリカ文学の愛好者は多く、現実やネット上で頻繁に出会うのですが、意外と日本のマジックリアリズムの話題にはなりません。

たとえば伊井直行中井紀夫など、とてもおもしろいのに著書の多くが絶版で残念におもいます。

 

とくに80年代以降に日本でも中南米的なマジックリアリズムを取り入れた作品が多く現れますが、それらのはるかはるか昔から現実のなかの非現実、非現実を織り込んだ現実を描く作品群は存在しています。

その最たるものがおそらく『今昔物語集』です。

 

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「良い夜を持っている」

不思議な縁で、中学、高校、大学と教えることになった学生がひとりいます。

中高ではそれぞれ半年ばかり塾で担当し、大学では初年次の基礎演習で担当しました。

 

わたしのいる大学の同じ学部学科に入学し、さらに十クラスほどあるなかピンポイントでわたしのゼミに振り分けられるという、こんなことは実に稀です。

 

一年生の頃から発表やレポートを一所懸命に取り組み、その後も専門科目の講義を熱心に受けてくれたので、成績と関係のないところでは全力で贔屓し倒してきたのですが、その子もついに、この後期で卒業を迎えます。

 

大学院への進学も考えたようですがよきところに就職が決まったとの報せを受けました。

おめでたいので昨夜お祝いをしてきました。

 

中学生の頃から知っている子とふたりでお酒を飲むというのは不思議なものです。

ついつい長話をしてしまいました。またこんな夜がくるとよいなと、そうおもっています。

 

流れで、わたしはももクロが好きになったんだよ、と告げたら、わたしも嵐さんが好きなんですよ、と返されました。

そこから嵐先輩を中心としたお話へと雪崩れ込みました。

あかりんの午後の紅茶のCMを推しておきました。

 

 

 

 

 

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未来としての日本の起源:B・スターリング「江戸の花」(1986)

かつて、SFはよく日本を舞台としました。

いまでもそうした作品はなきにしもあらずですが、サイバーパンクの時代であった80年代には日本こそが未来であるとして、あるいは未来とは日本であるとして、日本的なものや日本そのものを描くことが定番化しました。

(それらに先行するものとして、日本に住み、日本でSFの創作をはじめたイアン・ワトスン「銀座の恋の物語」などもあります。これを収めた『スロー・バード』はよい短篇集です。)

 

サイバーパンクの盟主であり日本を贔屓にしているブルース・スターリングにも日本を舞台とした「江戸の花」という作品があります。1986年に発表されてこのかた邦訳書には未収録でしたが、昨年刊行されたハヤカワ文庫の『SFマガジン700【海外篇】』に採られ、わたしはそれではじめて読みました。

 

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「羊をめぐる冒険」:ラムとビールと、玉井さんが

年に一度の恒例となったももいろクローバーZの24時間USTREAM生放送が終りました。

作業のために中座をしたり仮眠をとったりとしたために完走は果たせませんでしたが、3/4程度は視聴することができました。観るだけでもすこしは疲れてしまうので、出る側、作る側はどれだけ大変なのだろうかと考えると三年も継続してくれていることに頭が下がります。

 

さて、わたし個人として昨年と大きく変わったことが一つあり、それはtwitterのTLを並行して同時に眺めたということです。いわゆる実況というものですが、はじめてリアルタイムで体験しました。

多様な生の声が発せられては流れていき、大変に興味深いものでした。

 

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何とも云へずさびしい気がして

ひょんなことからある方に教えていただき、毎週水曜日に放送されているBS-TBSの音楽番組『SONG TO SOUL』を視聴するようになりました。

各回60-80sの洋楽のヒットソングを一つ取り上げ、その曲にまつわるエピソードや関係者のインタビューを一時間も放送するという、音楽専門チャンネルでも類をみない毎週がスペシャルな番組です。

 

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虚構また虚構、あるいは終りのない虚構:M・ブルガーコフ『劇場』(1966)

ブルガーコフの『劇場』を読みました。

白水社から出されていたシリーズ「20世紀のロシア小説」(全八冊)の一つであり、数年前に大学図書館の除籍図書を揃いで入手して以来、本棚の隅に積んだまま忘れていたものでした。

 

門外漢なので批評以外のロシア文学にはまるで馴染みがなく、ブルガーコフ岩波文庫の『悪魔物語・運命の卵』しか読んだことがありませんでした。そしてその一冊から、ブルガーコフH・G・ウェルズシュルレアリスムっぽくしたような作家なのだろうと、ふんわりとした印象を抱いていました。

それがこの長篇を読んで大きく変わりました。

 

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ロマン化される結核、そして軽井沢

NHKの『ブラタモリ』が好きで、欠かすことなく録画しています。

その地域の地形的な成り立ちを重視し、古地図とその痕跡を足掛かりとして散策を進めていく点がとてもおもしろいです。本筋とはなんら関わらない真空管についての雑談などのノイズが挿まれる点もおもしろいです。

 

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〈孤独〉の遷移:宮澤賢治・谷川俊太郎・高橋さおり

 

  人類は小さな球の上で

  眠り起きそして働き

  ときどき火星に仲間を欲しがつたりする

 

  火星人は小さな球の上で

  何をしてるか 僕は知らない

  (或はネリリし キルルし ハララしているか)

  しかしときどき地球に仲間を欲しがつたりする

  それはまつたくたしかなことだ

 

  万有引力とは

  ひき合う孤独の力である

 

  宇宙はひずんでいる

  それ故みんなはもとめ合う

 

  宇宙はどんどん膨らんでゆく

  それ故みんなは不安である

 

  二十億光年の孤独に

  僕は思わずくしやみをした

 

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