〈棄想天蓋〉:文芸とポップカルチャーを中心に

トマトです。学位は品種(文学)です。無名でも有名でもないちょうどよい塩梅の文芸作品をとりあげて雑感を綴ることが多いです。レコードが好きです。

語りの彼方にあるオモチロサへ:森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』(2006)

* 専門が近代だということもあって最近の小説はあまり読みません。 SFが好きなのでそうしたものを趣味的に読むか、必要に迫られて勉強のために読むかくらいです。 後者の一つとして数年前に森見登美彦の作品をまとめて読みました。 一作目の『太陽の塔』で…

六号雑感

* 家に籠って作業をしているうちにいつのまにやらもうお盆でした。 お盆になるとハリー細野の唄う「つめたく冷やして」が脳内でエンドレス再生されます。 つめたく冷やして 飲もうぜ麥酒[びいる] 冷たくしなけりゃ 飲んでも美味くない Don’t be cruel to a …

『ももいろフォーク村』についての雑感

* きょうの夜に、ついに『ももいろフォーク村デラックス』が開催されます。 沢山のゲストとのコラボレーションが企画されているので愉しみです。 きくちPのtwitterをみるに、その一つとしておそらく『ユリ熊嵐』のOP曲であったボンジュール鈴木「あの森で待…

ロジカルであってもリリカルであるに違いない:円城塔『烏有此譚』(2009)

* hontoからのDMで円城塔の新しい短篇集が近刊であることを知りました。 さほど熱心な読者でないわたしは雑誌掲載の連載や読切を追っているわけではないため、未読の作品をまとめて読むことができるのはなかなかに愉しみです。 『シャッフル航法』の刊行ま…

すこしふしぎ:中井紀夫「見果てぬ風」(1987)

* おそらく一年ほど前から、書店で筒井康隆『旅のラゴス』を頻りと目にするように感じていました。 壁面でピックアップされていたり平積みにされていたり、なぜか目立つ場所に置かれていることが多く、ときにはポップまで付されており、何事であろうか、改…

このぼんやりと白いもの

* 宮澤賢治の童話「銀河鉄道の夜」は、ジョバンニとカムパネルラが天の川に沿って走る鉄道で二人旅をする物語です。 そしてそれは牛乳をめぐる物語でもあります。 その夜のジョバンニの旅は母のために牛乳を取りに行くことからはじまり、その胸に牛乳を抱く…

「われに五月を」

* もとから五月が好きでした。 初夏に向かいみどりが芽吹く気候にこどもの頃はわくわくとしました。四月の、雪がすべて融けきってしまうそのすこし前も好きでしたが、日ざしの心地よさを感じはじめる五月がとても好きでした。

『幕が上がる』についての雑感

* 先日のことです。 大学一年生の子とちょっとお話をしていたところ、おもいがけず高校演劇の経験者であったという情報がとび出してきました。 その前にもたしか演劇に関心があるというようなことを聞いた覚えがあったので、当然のように、さりげなく、実に…

ももいろクローバーZについての雑感

* ももいろクローバーZを好きになるということは六月を好きになるということでもあるとおもいます。 そもそも六月は、必ずしも好まれてはいない月でしょう。 一年のなかで唯一祝日がなく、学生をはじめとしてカレンダーに沿って生活をする、もしくは仕事を…

Some Kinda Remembrance

* 夜に音楽を聴く時間が増えました。 十代の後半から二十代の中盤にかけてせっせとアナログレコードを集めていました。 それが大学院に入ったあたりからは金銭的な都合であまり買えなくなってしまいました。次第に欲しいものの多くが高価になってきたし、ア…

「みゝずのたはこと」

* あまり哀しんでいると犬も安らかに眠っていられないかもしれないので、笑っている写真などをみてたのしかったことを憶い出しています。よい笑顔です。 動画を撮っておけばよかったです。写真はたくさんあるけれど、声を聴きたくなってきます。

「荒涼たる帰宅」

* 犬の手術があった翌日に講義で高村光太郎の『智恵子抄』を扱いました。 この詩集の全篇を通して、妻を看取るそのときまで夫たる「私」が傍観者でしかいられなかったという側面を焦点化し、介護や看護に携わる余地の少ないシチュエーションについて考える…

「犬と私」

* 十歳になった犬を飼っています。

境界としての〈へり〉:天沢退二郎『光車よ、まわれ!』(1973)

* 昨年であったか一昨年であったか、すこし前のことになりますが『電脳コイル』を視聴しました。 2007年にNHKで放送され、日本SF大賞を取ったことでも話題となったアニメです。評判のよさは知りつつもタイミングを逃してしまったことと絵柄の印象で未見でい…

六号雑感

* 四月になりました。 年度が替わるタイミングで作業がたてこみゆっくりと物をおもうことができていなかったのですが、ようやくに落ち着いて大変なことにあらためて気がついてしまいました。 あーりんこと佐々木彩夏さんが社会人。 大学のキャンパスを歩く…

ポップカルチャーとサブカルチャーのあわいに

サブカルチャーという言葉を使うとき、どうしても違和感を感じてしまう人は多いのではないだろうか。サブというからにはメインカルチャーがあるはずだ。でもそんなものどこにあるのか。確固として揺るがないメインカルチャーなんて、かつてはあったのかもし…

吉岡美佐子に寄せる

* 先日の詩「告別」についての記事にすこしだけ補足をしようとおもいます。 宮澤賢治にはもう一つ、農学校の教え子を念頭に置いて書かれた詩があります。「生徒諸君に寄せる」という断片的なメモのようなものです。 この四ヶ年が わたくしにどんなに楽しか…

六号雑感

* blogをはじめて一週間とすこし、twitterをはじめて二週間とすこしが経ちました。 この間に四つの記事を書いてみたのですが、その四つ目がおもいもかけずにたくさんの方に読んでいただくところとなり、大変に驚きました。

高橋さおりへ吉岡美佐子から / 沢里武治へ宮澤賢治から

おまへのバスの三連音が どんなぐあいに鳴ってゐたかを おそらくおまへはわかってゐまい その純朴さ希みに充ちたたのしさは ほとんどおれを草葉のやうに顫はせた もしもおまへがそれらの音の特性や 立派な無数の順列を はっきり知って自由にいつでも使へるな…

「相対性理論」から連想されるもの

* 映画『幕が上がる』のキーワードの一つとして〈相対性理論〉を挙げることができます。 劇中では志賀廣太郎演じる現国教師が、「相対性理論」といえば最近ではバンドの名前、といった発言をするシーンがありました。 「相対性理論」といえば「やくしまるえ…

続・未完であること

〈青春ガールズムービー〉のほとんどが〈晴れ舞台でのパフォーマンス〉をクライマックスシーンとしているにもかかわらず、『幕が上がる』はそのパフォーマンスの直前で終幕してしまいます。 別言すれば、舞台の幕が上がるとともに映画の幕が下りてしまいます…

未完であること:〈青春ガールズムービー〉としての『幕が上がる』

* 二年前に『ももクロの美学』を著した安西信一先生がご存命であったら、いま現在のももいろクローバーZについて何を考え、何を書くのだろうかと、ふとおもいました。 その本のなかでももクロと比較されて中心的に論じられた〈青春ガールズムービー〉にも…