〈棄想天蓋〉:文芸とポップカルチャーを中心に

トマトです。学位は品種(文学)です。無名でも有名でもないちょうどよい塩梅の文芸作品をとりあげて雑感を綴ることが多いです。レコードが好きです。

米袋のプリマドンナ

講義の最終回のあたりに、映像資料を用いることがしばしばあります。

歴史や文化に関する講義では視覚的に確認することで理解が深まる場合が多いためです。画像もよいですが動画だとよりインパクトが強く、印象にも残りやすいようです。

 

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北園克衛、聡明な水晶の脳髄またはフラスコの中の湖

 

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意味によつてあまりにも混乱した詩は、すべての葉を失ふかはりに、無作法な雀らの群集する一本の木を思はせる。

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文学に於て、書かれた部分は単に文学に過ぎない。書かれない部分のみが初めてポエジイと呼ばれる。フロオベルが詩人であったのは、フロオベルが書いた文学に比較して、彼がいかに多くのポエジイを彼自身に持つてゐたかを意味するに外ならない。

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意味のない詩を書くことによつて、ポエジイの純粋は実験される。詩に意味を見ること、それは詩に文学のみを見ることにすぎない。

 

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竹中郁、リリカルなモダニスト

一つ前の記事のなかで『詩と詩論』に言及したところ懐かしさを覚え、久しぶりに何冊か開いてみようとおもい立ちました。

読み進むうちに線を引いた箇所などにあたり、かつて考えたであろうことを朧げに憶い出しました。

 

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ことばで世界を凍らせるということ

年末年始に、すこしまとめて前衛俳句を読みました。

ふり返ると昨年は詩にあまり触れずに過ごしたということにおもい至ったためです。

ゆっくりと短詩について考えたくて俳句を選びました。

 

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「玉井詩織」についての雑感

好きなものについて記してから年を越したいとおもいました。

このblogには「文芸とポップカルチャーを中心に」という副題をつけてみたのですが、気がつけば文芸とももいろクローバーZが中心になっており、なんだったらば「ももクロ」とタグ付けされた記事が最多になっていました。

という訳でわたしにとっては無意識的にも意識的にも「文芸」<「ももクロ」であることが明明白白となりました。

 

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六号雑感

根が暗いので、ほんのりと翳のある音楽を好んでいます。

 

近年はポップで明るく、かわいらしい曲も随分と聴くようになりましたが、気を抜くと休日なぞに日がな一日ベッドのなかで、Syd BarrettThe Madcap Laughs あたりを聴きつづけてしまいます。

(『帽子が笑う…不気味に』という邦題で知られる傑作であり、ジャケットも素晴らしくかっこよいのですが、いかんせんゆるくて不健康なアルバムです。)

 

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幕は必ず閉じるもの、そしてふたたび上がるもの

ああ、閉幕[カーテン・フォール]――

昨夜の帰路、こんな大時代がかった句が浮かんできました。奇書として知られる小栗虫太郎黒死館殺人事件』に登場する句です。

とうとう月刊TAKAHASHIが終ってしまいました。

 

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Project - Itoh という計画についての雑感

先日、Project - Itoh の映画『ハーモニー』を観ました。

わたしは原作が好きで、重要な作品だとおもっており、四年ほど前から講義で扱うなどもしていました。それもあってこうした形で映画が公開されたことを残念におもいます。

 

遡れば映画『屍者の帝国』も主題が曖昧であるように感じました。

こちらの原作は必ずしも好きとは言えないのですが、少なくとも主題に関しては絶対的に評価をすることはできていました。

屍者の帝国』という小説の凄さは、それまでの伊藤計劃の主題を引き継ぎつつ、同時に円城塔自身の主題もしっかりと織り込んで遺稿を完成させたところにこそあるとおもいます

 

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くじるら くじる えろらる らなる らな なや:大原まり子「銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ」(1982)

クジラが船に見立てられ、そして空を飛ばされるというのはSFでよくみる光景です。

形体やスケール感からしてごく自然な連想であって、『ドラえもん のび太の小宇宙戦争』のようにクジラ型の宇宙船が登場したり、B・スターリング『塵クジラの海』のようにクジラそのものが改造された船が登場したりします。

 

後者の一つとして大原まり子の「銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ」を挙げることができます。

 

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ふしあわせという名の黄色い猫がいる

一昨夜の『ももいろフォーク村』はいつになく内容が詰まっていたようにおもいます。

いずれの曲もみな印象深く、全体として渾沌とした、素晴らしい回でした。

 

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