〈棄想天蓋〉:文芸とポップカルチャーを中心に

トマトです。学位は品種(文学)です。無名でも有名でもないちょうどよい塩梅の文芸作品をとりあげて雑感を綴ることが多いです。レコードが好きです。

2015-01-01から1年間の記事一覧

「玉井詩織」についての雑感

* 好きなものについて記してから年を越したいとおもいました。 このblogには「文芸とポップカルチャーを中心に」という副題をつけてみたのですが、気がつけば文芸とももいろクローバーZが中心になっており、なんだったらば「ももクロ」とタグ付けされた記…

六号雑感

* 根が暗いので、ほんのりと翳のある音楽を好んでいます。 近年はポップで明るく、かわいらしい曲も随分と聴くようになりましたが、気を抜くと休日なぞに日がな一日ベッドのなかで、Syd Barrett の The Madcap Laughs あたりを聴きつづけてしまいます。 (…

幕は必ず閉じるもの、そしてふたたび上がるもの

* ああ、閉幕[カーテン・フォール]――。 昨夜の帰路、こんな大時代がかった句が浮かんできました。奇書として知られる小栗虫太郎『黒死館殺人事件』に登場する句です。 とうとう月刊TAKAHASHIが終ってしまいました。

Project - Itoh という計画についての雑感

* 先日、Project - Itoh の映画『ハーモニー』を観ました。 わたしは原作が好きで、重要な作品だとおもっており、四年ほど前から講義で扱うなどもしていました。それもあってこうした形で映画が公開されたことを残念におもいます。 遡れば映画『屍者の帝国…

くじるら くじる えろらる らなる らな なや:大原まり子「銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ」(1982)

* クジラが船に見立てられ、そして空を飛ばされるというのはSFでよくみる光景です。 形体やスケール感からしてごく自然な連想であって、『ドラえもん のび太の小宇宙戦争』のようにクジラ型の宇宙船が登場したり、B・スターリング『塵クジラの海』のように…

ふしあわせという名の黄色い猫がいる

* 一昨夜の『ももいろフォーク村』はいつになく内容が詰まっていたようにおもいます。 いずれの曲もみな印象深く、全体として渾沌とした、素晴らしい回でした。

アブノーマルな、余りにアブノーマルな:A・チュツオーラ『薬草まじない』(1981)

* 九月に文庫化された、エイモス・チュツオーラの『薬草まじない』を読みました。 岩波文庫では『やし酒飲み』につづき二冊目、ちくま文庫の『ブッシュ・オブ・ゴースツ』を含めると三冊目の文庫化です。わたしはチュツオーラをそれほど読んでおらず、文庫…

六号雑感

* 眠るのが朝になったときに聴きたくなる曲です。 このMVも何度でもリピートしたくなるけれど、やっぱりそもそもの曲自体が素晴らしい。 www.youtube.com イスラエル出身の Oren Lavie はアルバムを一枚しか出しておらず、それもどうやら廃盤となっているよ…

理外の理、マジックリアリズムのような:『今昔物語集』

* ラテンアメリカ文学が好きなので月に一冊くらいはそうした本を読みます。 新しい本にも手を伸ばしますが、コルタサルなどをぱらぱらと再読することが多いです。 世にラテンアメリカ文学の愛好者は多く、現実やネット上で頻繁に出会うのですが、意外と日本…

「良い夜を持っている」

* 不思議な縁で、中学、高校、大学と教えることになった学生がひとりいます。 中高ではそれぞれ半年ばかり塾で担当し、大学では初年次の基礎演習で担当しました。 わたしのいる大学の同じ学部学科に入学し、さらに十クラスほどあるなかピンポイントでわたし…

未来としての日本の起源:B・スターリング「江戸の花」(1986)

* かつて、SFはよく日本を舞台としました。 いまでもそうした作品はなきにしもあらずですが、サイバーパンクの時代であった80年代には日本こそが未来であるとして、あるいは未来とは日本であるとして、日本的なものや日本そのものを描くことが定番化しまし…

「羊をめぐる冒険」:ラムとビールと、玉井さんが

* 年に一度の恒例となったももいろクローバーZの24時間USTREAM生放送が終りました。 作業のために中座をしたり仮眠をとったりとしたために完走は果たせませんでしたが、3/4程度は視聴することができました。観るだけでもすこしは疲れてしまうので、出る側…

何とも云へずさびしい気がして

* ひょんなことからある方に教えていただき、毎週水曜日に放送されているBS-TBSの音楽番組『SONG TO SOUL』を視聴するようになりました。 各回60-80sの洋楽のヒットソングを一つ取り上げ、その曲にまつわるエピソードや関係者のインタビューを一時間も放送…

虚構また虚構、あるいは終りのない虚構:M・ブルガーコフ『劇場』(1966)

* ブルガーコフの『劇場』を読みました。 白水社から出されていたシリーズ「20世紀のロシア小説」(全八冊)の一つであり、数年前に大学図書館の除籍図書を揃いで入手して以来、本棚の隅に積んだまま忘れていたものでした。 門外漢なので批評以外のロシア文…

ロマン化される結核、そして軽井沢

* NHKの『ブラタモリ』が好きで、欠かすことなく録画しています。 その地域の地形的な成り立ちを重視し、古地図とその痕跡を足掛かりとして散策を進めていく点がとてもおもしろいです。本筋とはなんら関わらない真空管についての雑談などのノイズが挿まれる…

〈孤独〉の遷移:宮澤賢治・谷川俊太郎・高橋さおり

人類は小さな球の上で 眠り起きそして働き ときどき火星に仲間を欲しがつたりする 火星人は小さな球の上で 何をしてるか 僕は知らない (或はネリリし キルルし ハララしているか) しかしときどき地球に仲間を欲しがつたりする それはまつたくたしかなこと…

語りの彼方にあるオモチロサへ:森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』(2006)

* 専門が近代だということもあって最近の小説はあまり読みません。 SFが好きなのでそうしたものを趣味的に読むか、必要に迫られて勉強のために読むかくらいです。 後者の一つとして数年前に森見登美彦の作品をまとめて読みました。 一作目の『太陽の塔』で…

六号雑感

* 家に籠って作業をしているうちにいつのまにやらもうお盆でした。 お盆になるとハリー細野の唄う「つめたく冷やして」が脳内でエンドレス再生されます。 つめたく冷やして 飲もうぜ麥酒[びいる] 冷たくしなけりゃ 飲んでも美味くない Don’t be cruel to a …

『ももいろフォーク村』についての雑感

* きょうの夜に、ついに『ももいろフォーク村デラックス』が開催されます。 沢山のゲストとのコラボレーションが企画されているので愉しみです。 きくちPのtwitterをみるに、その一つとしておそらく『ユリ熊嵐』のOP曲であったボンジュール鈴木「あの森で待…

ロジカルであってもリリカルであるに違いない:円城塔『烏有此譚』(2009)

* hontoからのDMで円城塔の新しい短篇集が近刊であることを知りました。 さほど熱心な読者でないわたしは雑誌掲載の連載や読切を追っているわけではないため、未読の作品をまとめて読むことができるのはなかなかに愉しみです。 『シャッフル航法』の刊行ま…

すこしふしぎ:中井紀夫「見果てぬ風」(1987)

* おそらく一年ほど前から、書店で筒井康隆『旅のラゴス』を頻りと目にするように感じていました。 壁面でピックアップされていたり平積みにされていたり、なぜか目立つ場所に置かれていることが多く、ときにはポップまで付されており、何事であろうか、改…

このぼんやりと白いもの

* 宮澤賢治の童話「銀河鉄道の夜」は、ジョバンニとカムパネルラが天の川に沿って走る鉄道で二人旅をする物語です。 そしてそれは牛乳をめぐる物語でもあります。 その夜のジョバンニの旅は母のために牛乳を取りに行くことからはじまり、その胸に牛乳を抱く…

「われに五月を」

* もとから五月が好きでした。 初夏に向かいみどりが芽吹く気候にこどもの頃はわくわくとしました。四月の、雪がすべて融けきってしまうそのすこし前も好きでしたが、日ざしの心地よさを感じはじめる五月がとても好きでした。

『幕が上がる』についての雑感

* 先日のことです。 大学一年生の子とちょっとお話をしていたところ、おもいがけず高校演劇の経験者であったという情報がとび出してきました。 その前にもたしか演劇に関心があるというようなことを聞いた覚えがあったので、当然のように、さりげなく、実に…

ももいろクローバーZについての雑感

* ももいろクローバーZを好きになるということは六月を好きになるということでもあるとおもいます。 そもそも六月は、必ずしも好まれてはいない月でしょう。 一年のなかで唯一祝日がなく、学生をはじめとしてカレンダーに沿って生活をする、もしくは仕事を…

Some Kinda Remembrance

* 夜に音楽を聴く時間が増えました。 十代の後半から二十代の中盤にかけてせっせとアナログレコードを集めていました。 それが大学院に入ったあたりからは金銭的な都合であまり買えなくなってしまいました。次第に欲しいものの多くが高価になってきたし、ア…

「みゝずのたはこと」

* あまり哀しんでいると犬も安らかに眠っていられないかもしれないので、笑っている写真などをみてたのしかったことを憶い出しています。よい笑顔です。 動画を撮っておけばよかったです。写真はたくさんあるけれど、声を聴きたくなってきます。

「荒涼たる帰宅」

* 犬の手術があった翌日に講義で高村光太郎の『智恵子抄』を扱いました。 この詩集の全篇を通して、妻を看取るそのときまで夫たる「私」が傍観者でしかいられなかったという側面を焦点化し、介護や看護に携わる余地の少ないシチュエーションについて考える…

「犬と私」

* 十歳になった犬を飼っています。

境界としての〈へり〉:天沢退二郎『光車よ、まわれ!』(1973)

* 昨年であったか一昨年であったか、すこし前のことになりますが『電脳コイル』を視聴しました。 2007年にNHKで放送され、日本SF大賞を取ったことでも話題となったアニメです。評判のよさは知りつつもタイミングを逃してしまったことと絵柄の印象で未見でい…