〈棄想天蓋〉:文芸とポップカルチャーを中心に

トマトです。学位は品種(文学)です。無名でも有名でもないちょうどよい塩梅の文芸作品をとりあげて雑感を綴ることが多いです。レコードが好きです。

語りの彼方にあるオモチロサへ:森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』(2006)

専門が近代だということもあって最近の小説はあまり読みません。

SFが好きなのでそうしたものを趣味的に読むか、必要に迫られて勉強のために読むかくらいです。

後者の一つとして数年前に森見登美彦の作品をまとめて読みました。

一作目の『太陽の塔』で好きになってしまいました。

 

森見登美彦の作品は語りの構造がおもしろいとおもいます。

独特な語りそのもの、すなわち文体もさることながら、語り手がその物語を何のために語っている/書いているのかに意識的な作家です。

そして森見の作品の多くは、そうした語りの目的について考えることで、作中ではっきりと文章化されていない情報を引き出すことが可能であるようにおもわれます。

 

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六号雑感

家に籠って作業をしているうちにいつのまにやらもうお盆でした。

お盆になるとハリー細野の唄う「つめたく冷やして」が脳内でエンドレス再生されます。

 

  つめたく冷やして 飲もうぜ麥酒[びいる]

  冷たくしなけりゃ 飲んでも美味くない

  Don’t be cruel to a heart that true

 

この曲はもともと Elvis Presley の ”Don’t Be Cruel” にあがた森魚が日本語詞をつけて自身のアルバム『日本少年』(1976)に収めたものでした。そしてプロデューサーとして編曲をした細野さんが同年の中華街ライヴでカバーしました。

わたしは細野さんのCDのなかではこの中華街ライヴを聴く頻度がもっとも高いのですが、それはセットリストの一曲目にある「つめたく冷やして」が好きなためです。この日の演奏では他に「蝶々さん」と、のちにYMOでもやることとなる「ファイアークラッカー」が好きです。伝説と呼ばれるに相応しいイベントですね。

 

  父さん麥酒 坊やは西瓜

  皆で仲良く もうすぐ盆

 

盆明けまでに仕上げなければならない作業が山積みなので西瓜を食べつつ片づけています。

麥酒の方はおあずけです。

 

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『ももいろフォーク村』についての雑感

きょうの夜に、ついに『ももいろフォーク村デラックス』が開催されます。

沢山のゲストとのコラボレーションが企画されているので愉しみです。

 

きくちPのtwitterをみるに、その一つとしておそらく『ユリ熊嵐』のOP曲であったボンジュール鈴木「あの森で待ってる」をやるのではなかろうかと予想しており、待ち遠しくてたまりません。

もしもこれが実現するのであれば、次はその流れで高城れに×やくしまるえつこにも期待してしまいます。「Z女戦争」でのつながりがあるだけに交渉次第で出演してくれるのでは。

「ルル」や「ヤミヤミ」なんかはフォーク村にぴったりなようにおもいます。

 

 

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ロジカルであってもリリカルであるに違いない:円城塔『烏有此譚』(2009)

hontoからのDMで円城塔の新しい短篇集が近刊であることを知りました。

さほど熱心な読者でないわたしは雑誌掲載の連載や読切を追っているわけではないため、未読の作品をまとめて読むことができるのはなかなかに愉しみです。

 

『シャッフル航法』の刊行までまだひと月ほどあるので待機の暇に(円城塔作品のなかでは)比較的さくさくと読める(とおもっている)『烏有此譚』を再読しました。

 

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すこしふしぎ:中井紀夫「見果てぬ風」(1987)

おそらく一年ほど前から、書店で筒井康隆『旅のラゴス』を頻りと目にするように感じていました。

壁面でピックアップされていたり平積みにされていたり、なぜか目立つ場所に置かれていることが多く、ときにはポップまで付されており、何事であろうか、改版でもしたのかと訝しんでいました。

 

そんななか、すこし前に、筒井が出演したBSの番組でちょうどこの現象が話題となりました。

ラゴス』をジブリが映画化するという噂が立ったようだ、など二三の理由を挙げていましたが、どうやら著者本人にもはっきりとは分かっていない様子でした。

(脇道に逸れますが、仮にアニメ化が実現するとしたらジブリ本家ではなく新海誠あたりが『星を追う子ども』みたようなテイストでやりそうだなあ、なんておもったりしました。)

 

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このぼんやりと白いもの

宮澤賢治の童話「銀河鉄道の夜」は、ジョバンニとカムパネルラが天の川に沿って走る鉄道で二人旅をする物語です。

そしてそれは牛乳をめぐる物語でもあります。

その夜のジョバンニの旅は母のために牛乳を取りに行くことからはじまり、その胸に牛乳を抱くことで終ります。

 

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「われに五月を」

もとから五月が好きでした。

初夏に向かいみどりが芽吹く気候にこどもの頃はわくわくとしました。四月の、雪がすべて融けきってしまうそのすこし前も好きでしたが、日ざしの心地よさを感じはじめる五月がとても好きでした。

 

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『幕が上がる』についての雑感

先日のことです。

大学一年生の子とちょっとお話をしていたところ、おもいがけず高校演劇の経験者であったという情報がとび出してきました。

その前にもたしか演劇に関心があるというようなことを聞いた覚えがあったので、当然のように、さりげなく、実にさりげなく『幕が上がる』の話題をもちかけてみました。

すると即答されたのです、《わたし、映画に出てるんですよ》と。

 

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ももいろクローバーZについての雑感

ももいろクローバーZを好きになるということは六月を好きになるということでもあるとおもいます。

 

そもそも六月は、必ずしも好まれてはいない月でしょう。

一年のなかで唯一祝日がなく、学生をはじめとしてカレンダーに沿って生活をする、もしくは仕事をする人々にはとりわけつらい月です。GWと夏休みの間にそびえる鬼門であり、言うなれば〈ケ〉の月です。

 

しかしながら、言わずもがなのことですが、この六月にはももクロのメンバーのお誕生日が三回もあるわけです。実におめでたい月であり、祝わずにはいられない、嬉しくなってしまうにぎやかな月です。

 

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Some Kinda Remembrance

夜に音楽を聴く時間が増えました。

 

十代の後半から二十代の中盤にかけてせっせとアナログレコードを集めていました。

それが大学院に入ったあたりからは金銭的な都合であまり買えなくなってしまいました。次第に欲しいものの多くが高価になってきたし、アナログよりも本を買わなければならなかったし、といった事情です。

 

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